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略歴・抄録|山崎 和久

■抄録

口-腸-全身軸:ペリオドンタルメディスンの新たな因果メカニズム
Oral-gut-whole body axis: a novel mechanism linking periodontal disease and systemic diseases

新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野
山崎 和久

Kazuhisa Yamazaki
Research Unit for Oral-Systemic Connection, Division of Oral Science for Health Promotion, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences
Yoshitaka Hara

 今、生命科学領域で最もホットな研究分野の一つが腸内細菌研究である。PubMedによれば腸内細菌に関する研究報告は2000年にはわずか150報にも満たなかったが、2017年には4000報近くにまで劇的に増加している。ネイチャーやサイエンスといったいわゆるトップジャーナルにも頻繁に関連論文が掲載されている。腸内細菌の重要性の認識は今に始まったことではなく、「免疫食細胞説」でノーベル賞を受賞したロシアのメチニコフは、腸内の腐敗細菌が老化と関係するという仮説を提唱した。また、光岡知足博士は1969年に腸内細菌叢の宿主に与える影響について論じている。しかし、一躍脚光を浴びるようになったのはワシントン大学のGordonらにより腸内細菌と肥満の関係が科学的に示され、腸内細菌叢の動向が我々の健康に直接的に大きな影響を与えていることが明らかになってきたことによる。その後、糖尿病、動脈硬化性疾患、関節リウマチ、炎症性腸疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、精神神経疾患、がんなど様々な疾患の発症・進行に関連していることが次々と明らかになってきた。さらに、腸内細菌研究は口腔細菌との関連にも焦点を当て始めている。
 口腔内には大腸に次ぐ密度の細菌が棲息している。腸内細菌同様、それらは病原細菌の定着阻止やIgA産生を誘導して口腔内の恒常性を維持する役割を担っているが、細菌叢の構成異常(dysbiosis)を来すとう蝕や歯周病などの疾患を誘発する。近年の疫学研究により、口腔細菌のdysbiosisは口腔内固有の疾患、とりわけ歯周病を誘発するのみならず糖尿病、動脈硬化性疾患、関節リウマチ、非アルコール性脂肪肝疾患など、一見口腔とは関連が希薄な疾患の発症・進行リスクを有意に上昇させることが明らかになってきた。上述のように、奇しくもそれらの疾患は腸内細菌のdysbiosisが関連する疾患とオーバーラップする。現在、歯周病とそれら疾患の関連は歯周ポケット・炎症歯周組織を起源とする菌(内毒素)血症と炎症性メディエーターの全身への拡散と考えられているが、歯周病とそれら疾患の間には共通の疾患感受性、喫煙などの共通のリスク因子が存在する可能性が否定できない。さらに、組織中の菌が歯周ポケット由来であるという明確な証拠はない、歯周ポケット内と比較して組織中でのRed complex細菌の検出率は極めて低い、歯周病原細菌以外の口腔細菌や腸内細菌も検出される、血中の炎症メディエーターが歯周炎病変由来であるという明確な証拠はない等、因果関係を説明するデータも現在のところ乏しい。
 我々は代表的な歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis W83株(高病原性株)をC57BL/6マウスの口腔内に継続投与すると、歯槽骨吸収とともに全身の炎症マーカーが上昇し、血管、脂肪組織、肝臓においては炎症性変化や脂質代謝関連分子の変動が誘導されることを報告した。しかしながら、それらのマウス血中および大動脈弁からはP. gingivalisは検出されず、歯周組織局所の炎症所見はごく軽微であった。歯周病限細菌の感染が全身に影響を及ぼしていることは事実であるが、その因果関係についてはやはり前述した仮説では説明できないことが明らかになった。
 中等度から重度歯周炎患者唾液中には多量の歯周病原細菌が含まれることが報告され、そのほとんどは唾液とともに嚥下されることから、我々は腸内細菌叢への影響を疑い、マウスを用いた一連の実験においてP. gingivalis が腸内細菌叢を変動させ、腸管のバリア機能の低下、軽度菌血症を誘導することを初めて報告した。P. gingivalis口腔投与モデルマウスにおける耐糖能異常や脂肪・肝臓における炎症性変化は腸内環境に影響を与えた結果であることが強く示唆された。さらに、その後の解析で腸管免疫系のバランスにも影響を与えることが明らかになり、コラーゲン誘導関節炎モデルマウスを用いた実験で関節リウマチとの関連メカニズムを示唆するデータも得られている。
 非アルコール性脂肪肝炎などの肝疾患においては病因論において口-腸-肝臓軸という概念が注目されている。歯周病においても口-腸-全身軸の概念は、従来の仮説では十分に説明することができなかった歯周病と全身疾患の関連のみならず、口腔細菌叢の全身への影響についての因果関係を説明する合理的な生物学的分子基盤を提供すると考える。

■略歴

山崎 和久

1980年
神奈川歯科大学卒業
1985年
新潟大学大学院歯学研究科修了
1986年
クイーンズランド大学(オーストラリア) 研究員(1988年まで)
1988年
新潟大学歯学部附属病院第二保存科 講師
2004年
新潟大学歯学部口腔生命福祉学科口腔衛生支援学講座 教授
2010年
新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野 教授
2016年
IADR Distinguished Scientist Award for Research in Periodontal Disease受賞
2017年
国際歯科研究学会(JADR)会長

資格

日本歯周病学会専門医・指導医

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