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略歴・抄録|小林 哲夫

■抄録

歯周炎が関節リウマチ発症に及ぼす影響
Effect of Periodontitis on the Onset of Rheumatoid Arthritis

新潟大学医歯学総合病院 歯科総合診療部
General Dentistry and Clinical Education Unit, Niigata University Medical and Dental Hospital
小林 哲夫
Tetsuo Kobayashi

本歯科医師セッション2のサブテーマの趣旨に基づいて、本講演では代表的なリウマチ疾患の中でも精力的に研究がなされている関節リウマチ(RA)に焦点を絞りたい。RAは関節滑膜を病変主座とする炎症性自己免疫疾患であり、本邦での推定患者数は約100万人とも言われ、ロコモティブシンドロームにも関連する。RAは遺伝素因と環境因子が複雑に作用して発症する多因子性疾患であるが、近年、歯周炎がRA環境因子として関与することが注目されている。そこで本講演では、1)歯周炎によるRA発症機序、2)歯周治療のRAに及ぼす影響、3)RA併発歯周炎患者に対する歯周治療の留意点、の3点について歯科の観点から概説し、さらに医科歯科連携における歯科の役割についても考察したい。

1)歯周炎によるRA発症機序:
歯周炎や歯周病原細菌感染はタンパクシトルリン化に伴う自己抗体の産生と、それに伴う免疫寛容の破綻をもたらして、結果的にRAを惹起することが示唆されている。シトルリン化はタンパクアルギニンデイミナーゼ(PAD)酵素を介したアルギニンからシトルリンへの翻訳後修飾である。すなわち、①生体内PAD-2・PAD-4発現はRAと関連し、環状シトルリン化ペプチド(CCP)に対する自己抗体(抗CCP抗体)の発現はRA特異的な診断指標である。②PAD-2、PAD-4、抗CCP抗体の発現は、歯周炎患者でも亢進する。③歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis もPAD(PPAD)を保有し、PPADに対する抗体はRA患者で増加する。④歯周病原細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansもleukotoxin Aを放出して好中球PADを活性化する。以上の①~④から、歯周炎患者の歯周組織で産生されたシトルリン化タンパクが全身に波及してRAを惹起することが考えられる。最近では、別の翻訳後修飾カルバミル化がRAのみでなく歯周炎にも関与することが提唱されており、その解明が待たれる。

2)歯周治療のRAに及ぼす影響:
歯周炎や歯周病原細菌感染がRAの発症因子の1つであるならば、これらの因子を減少させる歯周治療の影響を検証することは重要である。これまでに7つのケースコントロール研究がなされており、非外科的歯周治療がRA活動度を改善させたのは6報告、RA関連の血液検査値(赤血球沈降速度など)を改善させたのは7報告全てであった。さらに、メタ分析でも同様な傾向を報告している。このような改善は、歯周ポケットや歯周組織内の細菌由来産物が歯周治療によって減少し、その影響が全身に及んだことが考えられる。演者らの検証でも、歯周治療後のRA患者のRA活動度、P.gingivalisに対する血清抗体価、抗CCP血清抗体価、およびシトルリン血清濃度は全て減少した。しかしながら、歯周治療の影響をさらに明確化するには、被験者数、観察期間、ならびに交絡因子の考慮の課題点があり、今後は大規模なランダム化比較試験による検証が必要と考えられる。

3)RA併発歯周炎患者に対する歯周治療の留意点:
歯周炎がRA発症に関与することを支持するエビデンスは増えてきている。したがって、臨床現場での歯科とリウマチ科との連携も益々求められてきている。すなわち、歯科医は安全な歯科治療を行うために、リウマチ医に対して、RA治療経過、RA活動性、服用薬、血液検査結果、および合併症などの情報を照会し、十分に把握することが必要である。同時に、歯科医はリウマチ患者やリウマチ医に対して、歯周炎の啓発活動も行う必要性があると考えられる。何故ならば、RA治療の実施前に歯周炎の有無やその程度を把握することは予後を考えるうえで重要であり、歯周治療や口腔ケアはRA治療効果に貢献することが期待されるからである。

■略歴

原 宜興

1987年
新潟大学歯学部 卒業
1989年
新潟大学歯学部 助手(歯科保存学第二講座)
1997年
日本学術振興会特定国(長期)派遣研究員(オランダ・ユトレヒト大学医学部)
2001年
新潟大学歯学部附属病院 講師(総合診療部)
2004年
新潟大学医歯学総合病院 准教授(歯科総合診療部)
2005年
日本歯周病学会 学術賞
2006年
新潟大学医歯学総合病院 病院教授
2017年
日本歯科保存学会 学術賞

資格

日本歯周病学会(専門医・指導医)
日本歯科保存学会(専門医)
米国歯周病学会
日本リウマチ学会
日本関節病学会

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