JapaneseEnglish

略歴・抄録|西田 亙

■抄録

炎症制御を通して糖尿病治療に貢献するこれからの臨床歯周病学
New insights of clinical periodontology into the control of oral inflammation which improves diabetes

にしだわたる糖尿病内科 院長 西田 亙
Nishida Wataru Diabetes Clinic, Wataru Nishida, M.D., Ph.D

 歯周病は、嫌気性菌を主体とした細菌感染による歯周組織の慢性微小炎症(歯周組織炎)である。一方、糖尿病患者の体内では、大型化した脂肪細胞の周囲で炎症が起こり(脂肪組織炎)、炎症性サイトカインが分泌されることで、インスリン抵抗性が高まり、結果として血糖が上昇する。歯周組織炎と脂肪組織炎は、いずれもインフルエンザや肺炎などとは異なり軽微な炎症ではあるが、長期間にわたり持続する点が重要である。筆者の経験では、慢性歯周炎を合併した糖尿病患者のC反応性蛋白(CRP: C Reactive Protein)は0.3mg/dL前後である。これは、従来の医科常識からすれば無視されるほどの低値ではあるが(一般的にCRP基準値は0.3mg/dL以下とされている)、糖尿病の悪化や心筋梗塞の発症リスク上昇など、全身に莫大な悪影響を与えている。
 我が国の糖尿病領域における医科歯科連携は、近年急速な盛り上がりを見せている。医科から歯科への期待は加速度的に高まっているが、その背景を理解するためには、歯科側もこれまでの歴史を把握しておく必要がある。
 2016年、日本糖尿病学会は”糖尿病診療ガイドライン"中において、「歯周治療は血糖コントロールの改善に有効か?」という問いに対して「2型糖尿病では歯周治療により血糖が改善する可能性があり、推奨される」と明確な判断を下した。その解説文中では、「歯周治療によりHbA1cは0.4〜0.7ポイント低下する」事が明記された上に、「日本糖尿病学会は日本歯周病学会と連携し、糖尿病患者への歯周治療を推奨する」ことが高らかに宣言されている。ちなみに、HbA1c 0.4〜0.7ポイントの低下は、”経口血糖降下剤一剤に匹敵する"血糖改善効果である。
 2016年はこのガイドライン改訂に加え、他にも大きな出来事が二つあった。日本糖尿病協会は、糖尿病患者に向けた”糖尿病連携手帳"を無料で配布している。患者は、受診時に本手帳を持参し、検査結果や治療内容を主治医が記載する。眼科や歯科などを受診する際にも本手帳を提出することで、多職種間で患者の状態や治療状況を把握・共有することが可能になっている。元々、本手帳の歯科記載事項は4項目しか存在しなかったが、2016年2月に行われた改訂において、歯科の記載項目は14項目へと大幅に拡充され、眼科医師の記載スペースと同等になったのである。
 このような流れを踏まえたものと思われるが、2016年春、新たな歯科診療報酬として"歯周疾患処置(糖尿病を有する患者に使用する場合)ー略称 P処(糖)" が登場した。従来の歯周疾患処置は、歯周基本治療終了後に臨床症状の改善が認められない場合に限り請求できた。しかし、P処(糖)の登場により、糖尿病患者の場合は特例として歯周基本治療と併行しながら歯周疾患処置、すなわち抗菌療法を併用することが可能になったのである。
 このように、糖尿病領域における医科歯科連携は急速な展開を見せている。中でも2016年の進展は目覚ましいが、なぜ日本糖尿病学会・日本糖尿病協会・厚生労働省は、ここまで糖尿病と歯周病の関係を重要視するのであろうか?その背景には、国内外で実施されてきた膨大な臨床研究成果が存在することはもちろんであるが、中でも重要なものは、両者が”炎症で強く結ばれている”事実である。
 講演中では、この事実を教える具体的な臨床症例や、重要な学術論文を紹介し、”歯周治療の炎症制御的意義”について内科医の観点から述べる。
 歯周病の放置は、慢性微小炎症を通じてインスリン抵抗性を産み出し、糖尿病を悪化させる。逆に捉えれば、歯周治療により慢性歯周炎が消退すれば、血糖値は改善する。よって、歯周病を合併した糖尿病患者には、歯周治療を積極的に勧めなければならない。この際、CRPで慢性微小炎症をフォローできれば、臨床経過の評価と科学的医科歯科連携の構築に役立つだろう。本講演が、そのための一助となれば幸いである。

■略歴

西田 亙

1988年
愛媛大学医学部卒業
1993年
愛媛大学大学院医学系研究科修了 (医学博士)
2002年
愛媛大学医学部附属病院・臨床検査医学(糖尿病内科) 助手
2008年
愛媛大学大学院医学系研究科・分子遺伝制御内科学(糖尿病内科) 特任講師
2012年
にしだわたる糖尿病内科 開院、現在に至る

歯科関連著作

西田亙、内科医から伝えたい歯科医院に知ってほしい糖尿病のこと、医歯薬出版, 2017
西田亙、口腔感染制御が医科歯科と社会を結ぶ、日本歯科医師会雑誌. 70 (8):47-4253, 2017
西田亙、歯科衛生士だからこそできる血糖値の改善と糖尿病予防、日本歯科衛生学会雑誌. 11 (2):6-14, 2017)

所属団体・資格

にしだわたる糖尿病内科 院長
糖尿病専門医
医学博士

← 戻 る▲ページトップ

ページトップ