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略歴・抄録|倉本 祐里

■抄録

歯科衛生士の立場から周術期口腔管理を考える
Perioperative oral management required for dental hygienists

医療法人緑風会 ハロー歯科
倉本 祐里(Kuramoto Yuri)

 厚生労働省が発表した平成28年の歯科疾患実態調査によると、8020達成者は51.2%と、有歯顎者数は過去最高となった。しかし、残存歯数の増加に比例して高齢者の歯周疾患を有する率は増加傾向にあり、他世代の歯周疾患罹患率減少に反して高齢者の口腔環境は深刻な問題として報告されている。医科からの紹介によって歯科受診した患者にも、長期にわたる歯科受診がなく、誤嚥性肺炎発症のリスクが極めて高い重度の歯周疾患を有する患者は少なくない。また、高齢者や全身疾患を有する患者は、加齢に伴う機能変化、全身疾患、フレイルなどによって若年者と比較して身体的・精神的な個人差が大きいという特徴がある。医療の高度化に伴い、われわれはこのような背景の患者の口腔管理を行う機会が増えている。
 口腔管理を行う上での問題として、このような多様性のある患者や口腔環境に対して、口腔内を評価する方法が少なく、一元的な口腔管理しか提供できないことが挙げられる。また、看護師への意識調査の結果、「歯科衛生士は歯ブラシをするだけ」との認識から、看護業務である口腔ケアに歯科は必要ないと考える看護師が3割を超えたとの報告がある。他職種が歯科の専門性に信頼を置いていないことは、医科歯科連携の充実が求められる今後、解決すべき問題点と感じている。これらの問題点に対して広島大学病院では、アセスメントによって口腔環境を数値化し、他職種と共通認識を持つことを重視した取り組みを行っている。
 取り組みの一つとして、口腔内を総合的に評価するために「口腔内環境」と「感染源リスク」を評価する2種類のアセスメントを作成した。「口腔内環境評価」は、口腔衛生状態や唾液性状、乾燥度などの粘膜状態を数値化したもので、多職種で評価を行うことが可能である。また「口腔内感染源リスク評価」は、う蝕や歯周病、粘膜炎など感染源となり得る程度を数値化したもので、歯科医師の診断のもとに評価を行う。これらのアセスメントによって他職種と口腔内の情報共有が可能となり、歯科治療のタイミングや管理レベルを検討することで、より精細な治療支援へと繋げることが可能となった。
 今回のテーマである歯周疾患は、歯周病原細菌の「①感染infection」によって、歯周組織に「②炎症inflammation」が生じ、咀嚼や咬合などの「③口腔機能function」が低下する疾患である。当院ではさらなる取り組みとして、既存の歯周検査に加え、3つの因子に関して
① 感染:歯周病原細菌の血清抗体価
② 炎症:歯周組織の炎症面積(PISA:periodontal inflamed surface area)、血清中CRP 等
③ 機能:舌圧、咬合力、咀嚼能率 等
の検査を行っている。これらのアセスメントによって、「歯周疾患の影響の大きさ」を数値として捉えることができるようになった。全身疾患と歯周疾患の関連については多数報告されており、歯周疾患治療による口腔細菌数減少や口腔機能の回復などは、全身疾患の治療において大いに期待されている。今後はこれらのアセスメントによって口腔環境について他職種と共通認識をもつことが可能となり、円滑な連携へと繋げることが期待される。  現在、歯科衛生士の中には、常勤の歯科医師が不在の中で病院勤務や往診口腔ケアおこなっている者も少なくない。その背後には、周術期口腔機能管理が新設されて以降、院内歯科は新設され続けているものの、未だに歯科を標榜する市中病院は3割に満たないという現状がある。口腔管理の発展には、他職種と協働する歯科衛生士が、単にブラッシングによる衛生管理を行う存在ではなく、適切にアセスメントを行い、エビデンスに基づいた口腔管理の必要性や方法について提示する必要がある。また、歯周疾患の治療は長期に及ぶため、患者が歯科医院に通院可能な時から、継続的な歯科受診の必要性を啓発し、口腔環境の整備を支援する必要があると考える。
 本講演では、歯科衛生士として誤嚥性肺炎の抑制にどのように寄与できるか、エビデンスに基づいた根拠ある口腔管理をどのように提供すべきか、そして、多職種連携が求められる今後に向けて歯科衛生士の専門性に対する信頼をどのように得るか、当院で行っている取り組みについて、実際の症例も供覧しつつ考察していきたい。

■略歴

滝川 雅之

2014年
広島大学歯学部口腔健康科学科卒業
広島大学病院勤務

所属学会・資格

日本歯科衛生学会
日本口腔ケア学会
日本がん口腔支持療法学会
日本歯科審美学会
広島歯科医療安全支援機構 認定歯科衛生士

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