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略歴・抄録|永田 俊彦

■抄録

歯周組織の炎症が全身に飛び火するメカニズム:腎臓病との関連
Inflammatory injury from periodontitis-derived lesion to systemic organs and the relationship between periodontitis and kidney diseases.

徳島大学名誉教授 永田俊彦

 歯周病由来の局所因子が全身に飛び火して悪さをするという現象は、多くの研究成果によって世間一般にも理解されるようになってきた。飛び火するメカニズムに関しては、現在のところ以下の3つのパターンが役割を担っていると考えられている(Van Dyke, 2013)。(1) 感染の伝播(菌血症)、(2) 炎症の波及、(3) 免疫応答の進展の3つである。これらは独立して組織の傷害に関与するとともに、(1)、(2)、(3) の反応が順次起こり、全身の各組織でそれぞれの特徴的な為害性が発揮されるものと考えられる。感染の伝播では、細菌がもつビルレンスファクターが直接的に全身各組織の傷害を引き起こす。局所の炎症性因子が全身に波及する際には、歯周組織に存在する種々のサイトカインやマクロファージなどが血行を介して全身へと放出される。さらに、受け手側の血管内皮細胞や肝細胞が炎症性因子に呼応して、新たなサイトカインやC反応性蛋白(CRP)が産生された結果、これらがさらに全身に拡散する。一方、歯周炎が慢性化した場合、歯周組織での免疫応答によってマクロファージやTリンパ球が関与するサイトカインが恒常的に産生され、全身レベルでのマイクロインフラメーションが持続する。これら3つのパターンは、ヒトの組織で確かなエビデンスをもって証明されているわけではなく、主に動物実験や臨床データに支えられたものである。また、想定される炎症の波及が多くの臨床疫学データ、とりわけコホート研究を基盤とするエビデンスレベルの高い臨床疫学調査によって強く支持されているのも事実である。
 歯周組織の炎症が全身に飛び火して、各組織で為害性を発揮するメカニズムは、影響を受ける組織によって異なる。特徴的な現象として、心血管疾患ではアテローム血栓の形成と動脈硬化の進展、早産・低体重児出産ではプロスタグランジンの産生上昇、糖尿病では脂肪細胞へのサイトカインの浸潤、関節リウマチでは歯周病菌由来のシトルリン化蛋白質の産生などを列挙することができる。これらの炎症波及メカニズムにおける歯周病由来因子の確かな関与について、今後のさらなる研究成果が期待される。
 一方、2002年に米国で提唱された慢性腎臓病(CKD)は、腎障害が慢性的に持続する病態の総称であり、蛋白尿の存在および糸球体濾過量(GFR)が60mL/min/1.73m2未満で3ヶ月以上持続することで定義づけられる。CKDは年齢、性別、血清クレアチニン値からのGFR推計値(推計GFR: eGFR)によって診断され、我が国では1300万人以上がCKDに該当すると言われている。CKDの診断は重要で、腎不全の予防だけでなく心血管死の予防につながる。CKDが進行し腎機能が低下して腎不全に陥ると人工透析を余儀なくされるが、注目すべきは、全国で人工透析を受けている約32万人のうち、約半数近くが糖尿病性腎症由来の透析患者であるということである。
 歯周病と腎臓病の関連については、十分にデータが蓄積されていない現状があり、確かな事実を把握するためにも今後は大規模臨床疫学研究の必要性が求められる。そんな中で、小生は2016年の日本歯周病学会ガイドライン「歯周病と全身の健康」の中で、「歯周病と腎臓病」を担当した。その結果、歯周病とCKDは相互に関連があり、歯周治療によってCKDが改善する臨床研究結果も多数報告されていることを発見した。まだ高いエビデンスレベルではないが、歯周病とCKDには概ね双方向の関連性が認められ、それらの関連についての病態機序も想定されている。すなわち、CKDに認められる貧血や骨代謝異常に起因する免疫力低下や骨量減少が歯周病悪化の一因となることや、歯周病巣から飛び火した炎症性因子は血管内皮細胞の機能障害を引き起こし、高血圧や動脈硬化を進行させた結果、腎機能が低下する可能性が考えられる。
 このセッションで、小生は講演者として歯周組織の炎症が全身に飛び火する一般的な考え方を述べた上で、歯周病と腎臓病の関連、とくに腎臓病における歯周病の為害性について総論的な知識を提供するとともに、モデレーターとして、古川慎哉先生の「歯周炎と糖尿病の関連」、滝川雅之先生の「歯周炎と妊娠との関連」についても課題を整理して解説したい。

■略歴

永田 俊彦

1978年
九州大学歯学部卒業
1979年
徳島大学歯学部附属病院助手(第二保存科)
1986年
徳島大学歯学部附属病院講師(第二保存科)
1988年
カナダ・トロント大学客員研究員:2年間
1995年
徳島大学歯学部教授(歯科保存学第二講座)
2004年
徳島大学大学院教授(歯周歯内治療学分野)
2004年
徳島大学学長補佐(国際関係担当):3年間
2007年
徳島大学歯学部長:2年間
2013年
日本歯周病学会理事長:2年間
2016年
徳島大学理事・副学長(研究・国際担当):1年間
2017年
徳島大学名誉教授 

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